『田園の詩』NO.12  「花粉症」 (1994.3.8)


 春先のこの季節、毎年の恒例として、私は花粉症とお付き合いをすることになり
ます。もう20年にもなろうかという憎い間柄で、まだ、京都に住んでいた頃から、
どこからか飛んでくる目に見えないスギ花粉が、あの何とも煩わしい症状で私を
悩ますのです。

 ところが、都会では見えなかったスギ花粉が、山里の当地では、それはもう恐ろ
しいほどよく見えるのです。

 周りは全部杉山。風が吹くと、山全体から湯気が立ちのぼるように黄緑の花粉が
舞い上がります。カラスが枝に止まると、そこから花粉がドッと飛び散ります。もしか
すると、カラスは「花粉飛ばしゲーム」を楽しんでいるのかもしれません。見ていると
面白いですが、私にとっては鳥肌の立つ光景でもあります。


     
    これが杉の実と花粉です。道端の杉の枝を少しゆすってみました。
     花粉が、自分の方に来ないように、写真を撮るのに苦労しました。 (08.3.22 写)


 ところで、花粉症は大人になってからですが、子供の頃、自然から受けるアレル
ギーとして「漆かぶれ」によくなったものでした。小学校時代、遠足(単に野山を歩
き廻るだけ)の後など、どこでハゼの木に触ったのか、顔や手に赤いブツブツが
いっぱいできて難儀しました。

 この「漆かぶれ」については、笑うに笑えぬ話があります。知人のカメラマンが
「漆塗り」の記録映画を製作した時、相当ひどくかぶれてしまったのです。医者に
行ったら、「こんな見事な漆かぶれはめったにお目にかかれない。記録として残
しておきたい」といわれて、体中、写真に撮られたそうです。

 近くに住む竹工芸家も、初めは漆には難儀したらしく、手の指と指がくっつくほど
に腫れ上がったと聞きました。それでも、他に勝るものはないと、漆仕上げの素晴
らしい作品を作り続けています。

 幸い、私は筆を作る職人ですが、漆を使う工程はありません。そっと胸を撫で下
ろしています。

 これから桜の花が終わる頃まで憂うつな毎日が続きます。花粉症で苦しんだ
ことを、昔話として話すことのできる日が来るのでしょうか。  (住職・筆工)

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